そっと目を開けると、畑にいたおばあさんがニコニコと笑いながらこちらを見ていた。
「こんにちは。今日は天気がいいねぇ」
ほっかむりを取りながら額の汗をぬぐうおばあさん。
大きく息を吸いこむと、菜の花の匂いが鼻をくすぐる。
見た目は綺麗だけど、菜の花は臭いから少し苦手だ。
「――こんにちは。本当にいい天気ですね」
自然と言葉になった。当たり前のことかもしれない。
でも、たまらなく嬉しくて笑顔になる。
ようやくわたしはわたしでいられる。
「お嬢さん、この先にある桜の木はもう見たかしら?」
「桜の木ですか?」
「そうよ。緑ヶ丘公園を知ってるかい?あそこの桜はね、遅咲きなの。今年は寒かったからねぇ。まだ満開とまではいかないかもしれないけど、見てみるといいわ」
確かに今年は寒冬だった。例年より桜の開花も遅いとテレビのニュースで見た。
それでも、高校の校門のそばのソメイヨシノは春風に吹かれヒラヒラと散り、ところどころに緑色の葉っぱをのぞかせていた。
「遅咲きの桜……」
独り言のように口から滑り落ちた言葉をおばあさんは聞き逃さなかった。
「えぇ。桜といえば有名なのはソメイヨシノだけど、そのほかの桜もいいものよ。見た目は違うけどどの桜も綺麗よねぇ」
おばあさんは目尻を細めてにっこりと満足げに笑った。
桜……か。
緑ヶ丘公園は何度も足を運んだことがあるけれど、桜の木があるとは知らなかった。
春休み期間ということもあり足が遠のいていた。
「そうですね。今から早速行ってみます」
そう答えると、おばあさんはうんうんっと嬉しそうにうなずく。
わたしは見知らぬ人とのこんななんてことのないたわいのない会話をするのが好きだ。
きっとそれは、このおばあさんがわたしの学校での姿を知らないからだ。
クラスの隅でいつもひとりぼっちでスカートを握り締めている子だって知らないから。
弱くて情けなくて惨めなわたしをおばあさんは知らない。
だから、きっと。
あぁ、ダメだ。すぐネガティブになってしまうのはわたしの悪い癖。
私はおばあさんに頭を下げて歩き出す。
南から吹く暖かくて穏やかな風がわたしのスカートを揺らした。
「こんにちは。今日は天気がいいねぇ」
ほっかむりを取りながら額の汗をぬぐうおばあさん。
大きく息を吸いこむと、菜の花の匂いが鼻をくすぐる。
見た目は綺麗だけど、菜の花は臭いから少し苦手だ。
「――こんにちは。本当にいい天気ですね」
自然と言葉になった。当たり前のことかもしれない。
でも、たまらなく嬉しくて笑顔になる。
ようやくわたしはわたしでいられる。
「お嬢さん、この先にある桜の木はもう見たかしら?」
「桜の木ですか?」
「そうよ。緑ヶ丘公園を知ってるかい?あそこの桜はね、遅咲きなの。今年は寒かったからねぇ。まだ満開とまではいかないかもしれないけど、見てみるといいわ」
確かに今年は寒冬だった。例年より桜の開花も遅いとテレビのニュースで見た。
それでも、高校の校門のそばのソメイヨシノは春風に吹かれヒラヒラと散り、ところどころに緑色の葉っぱをのぞかせていた。
「遅咲きの桜……」
独り言のように口から滑り落ちた言葉をおばあさんは聞き逃さなかった。
「えぇ。桜といえば有名なのはソメイヨシノだけど、そのほかの桜もいいものよ。見た目は違うけどどの桜も綺麗よねぇ」
おばあさんは目尻を細めてにっこりと満足げに笑った。
桜……か。
緑ヶ丘公園は何度も足を運んだことがあるけれど、桜の木があるとは知らなかった。
春休み期間ということもあり足が遠のいていた。
「そうですね。今から早速行ってみます」
そう答えると、おばあさんはうんうんっと嬉しそうにうなずく。
わたしは見知らぬ人とのこんななんてことのないたわいのない会話をするのが好きだ。
きっとそれは、このおばあさんがわたしの学校での姿を知らないからだ。
クラスの隅でいつもひとりぼっちでスカートを握り締めている子だって知らないから。
弱くて情けなくて惨めなわたしをおばあさんは知らない。
だから、きっと。
あぁ、ダメだ。すぐネガティブになってしまうのはわたしの悪い癖。
私はおばあさんに頭を下げて歩き出す。
南から吹く暖かくて穏やかな風がわたしのスカートを揺らした。