「送ってくれてありがとう!行ってくるね」
 
「また連絡して。迎えに来るから」

学校が終わった後、藤原くんの入院する病院の前まで車で送ってくれた母に手を振る。

藤原くんが入院してから10日が過ぎた。まだ目を覚ます気配はない。

それでもわたしは毎日藤原くんの元へ足を運んだ。

藤原くんのそばにいたかったから。

今、わたしにできることは藤原くんに声をかけ続けることだ。

痛々しいほど体につけられていたたくさんの管も今はほとんどなくなった。

頭に包帯は巻かれているけど、近々抜糸をすることになれば包帯もとれるらしいとおばあさんに聞いた。

703号室の前で立ち止まる。

あのあと、容体が落ち着くとICUから大部屋に移された。

扉を開けて一番奥にある窓際のベッドに足を向ける。

わずかに開いた窓の隙間から風が吹き込む。

もう5月。ゴールデンウィークはいつの間にか終わってしまっていた。

「藤原くん、お見舞いにきたよ。今日は少し遅くなっちゃったね。ごめんね」

わたしはそっと藤原くんの左手を握った。

藤原くんの手はわたしの手よりも大きい。爪の形が男の子だとは思えないぐらいに綺麗だ。

毎日この手を握り締めながらわたしは藤原くんに声をかける。