「ごめん……ごめんね……。全部、わたしのせいだった……全部……」

藤原くんはわたしに嘘をついていた。

その嘘の理由が全てハッキリした。

藤原くんは、わたしを守ろうとしてくれていたんだ。

自分の命と運命と引き換えに。

わたしがこの屋上から飛び降りる未来を、藤原くんは知っていた。

だから、未来を変えようとした。

そのせいで――。

嗚咽が沸き上がってくる。

わたしは藤原くんの手をそっと離した。

ここで諦めたらいけない。運命に抗うんだ。

それがたとえ無駄な努力であろうと、わたしはあきらめない。

最後の最後まで絶対にあきらめない。

「ダメ……。ここで死んじゃダメ。藤原くん、生きて。お願いだから、生きて」

わたしは立ち上がって藤原くんの体の上のパイプを引っ張った。

そんな姿を見ていた周りの人々が駆け寄り、わたしに手を貸してくれた。

「いくぞ、引っ張れ!」

藤原くんの体の上のパイプが人々の手によって取り去られる。

「救急車まだか!?」

男性の怒声が鼓膜を震わせる。

わたしは再び藤原くんの隣に腰を下ろし、ギュッと手を握り締めた。

徐々に青白くなっていく藤原くんの顔にポツリポツリとわたしの涙の跡が付く。

「藤原くん、頑張れ。もうすぐだから。もうすぐ救急車が来るから!!」

こんな終わり方、絶対にだめ。

必死になって藤原くんに呼び掛ける。

「大丈夫だよ、藤原くん!わたしがずっとそばにいるから。だからお願い……」

――生きて。

わたしの願いはたった一つ。ただそれだけ。

藤原くんに声をかけ続けているわたしの元へ救急隊員が駆け寄る。

「ちょっと離れて!!」

救急隊員が藤原くんに声をかけて意識の有無を確認する。

険しい表情を浮かべる救急隊員。

わたしは祈るような気持ちで救急車に乗せられていく藤原くんを見送ることしかできなかった。