藤原くんの望む返答はできない。
『いいよ』
そんなたった3文字が口から出てきてくれない。
「了解!じゃ、結衣って呼ぶわ。じゃ、また明日な」
「……――!!」
え、今、なんて?わたし、首を横に振ったのに。
衝撃的な返答に目を白黒させる。どういうこと?
首を横に振ったのに、気付いていなかった?それとも、それに気付いていて気付かないふりをしたの?
驚いて放心状態のわたしを無視して藤原くんはポンポンっと2度肩を叩くと、わたしの横を通り過ぎて友達の元へ向かう。
藤原くんからかすかに漂う男物の香水の匂いに胸の中がざわざわする。
わたしなんか構ったところで藤原くんには何の得もないのに。
ううん、逆に不利益しかないと思うんだけどな。
そんなお節介なことを考えている自分に心の中で苦笑しながら今度こそ教室を出た。
変わらないと思っていたのに変わったことが、一つ。
藤原くんという男の子に名前を呼ばれた。
それにどんな意味があるのか、わたしにはまだよくわからない。