それでも、わたしは藤原くんとここでバイバイすることははばかられた。

どうしてこんなタイミングで藤原くんが去っていくのかもわからなかった。

時刻はまだ17時30分。まだ辺りは明るい。

藤原くんのリミットは明日だと言っていた。

今日、急ぎでしなければいけない予定は一体何だろう。

わたしは芝生の上のバッグを掴み上げ、肩にかけた。

いけないことだってわかってる。

でも、何故か何かに急かされているような気持ちになった。

そんなわたしの背中を押すように桜の木の枝と葉が風に揺られて音を立てる。

わたしは弾かれたように駆け出して藤原くんの背中を追った。

藤原くんは何の迷いもなく目的地を目指して歩みを進めている。

わたしは藤原くんに気付かれないように後を追った。

向かった先は学校の南側の市街地だった。

初めて一緒に遊んだ日、待ち合わせした場所を通り過ぎる。

一緒に行った猫カフェのあるビルの前まで来ると、藤原くんとの思い出がよみがえって苦しくなる。

その先にあったのは、足場を組み、外壁工事をしている高層ビルだった。