藤原くんがわたしにしてくれたように。

「自分以外の人のこと、こんなに大切だって思ったの結衣が初めてだから」

声がかすれている。

「こんな気持ちを教えてくれてありがとう。生きてる意味を教えてくれてありがとう」

首を横に振ると、藤原くんがわたしの髪をそっと撫でる。

「俺の願いは、結衣が幸せに生きること。だから、笑ってよ、結衣」

鼻をすすって涙を流すことしかできない。

笑えない。笑えるわけない。もうすぐ大切な人がいなくなると知っていながら笑顔を浮かべられるわけなんてない。

藤原くんはそっとわたしの体に回していた腕を解いた。

スッと藤原くんの体温が消えていく。

スマホを取り出して時間を確認すると、藤原くんは「そろそろ行くな」と言って立ち上がった。

「結衣、じゃあね」

何故か永遠の別れのようにそう言ってわたしの頭を撫でる藤原くん。

わたしは慌てて立ち上がって藤原くんの手を掴んだ。

「ん?」

【もう バイバイ?】

「あぁ。今日、これから予定があるから」

【わたしが一緒だとだめ?】

「ダメ。とにかく結衣はここにいてよ」

【待ってたらまた戻ってきてくれる?】

「ごめん。じゃあ約束なー」

藤原くんはニッと笑ってわたしの頭をポンポンッと優しく叩くと、わたしに背中を向けて歩き出す。

その背中がどんどん遠くなっていく。

「痛っ……」

それにつれて頭の痛みが強くなる。ここまでの頭痛はなかなかない。