「俺さ、この場所に来るのがずっと怖かった。俺のせいでみんな死んだんだって思ってたから。今も昨日のことのようにあの事故のことを思い出せる。鮮明に蘇るんだ。物凄い衝撃のあと、母さんの悲鳴が聞こえて。車がグルグル回転して。意識が戻ったとき……車内はガソリンが漏れてるのか変な匂いがして。意識があるのは後部座席に座ってた俺と虫の息の兄貴だけで。兄貴は頭から血を流してぐったりしてた」

胸が痛む。

わたしはその痛みに耐えるようにぐっと奥歯を噛みしめた。

「救急隊が到着したとき、まだ兄貴は生きてたんだ。でも、俺に『逃げろ』って。兄貴を掴んだ俺の手を振り払ったんだ」

意識のあった藤原くんは優先的に救出された。

そのあと、すぐに藤原くんは救急隊員に必死に訴えた。

――助けて。助けてください。まだ中にお父さんもお母さんも兄貴もいる!兄貴はまだ生きてる!兄貴を助けて!!早く!お願いだから」

でも、消防も警察も「マズい!ガソリンが漏れている!爆発するぞ!!」そういって車から離れた。

そのすぐあとに車が爆発した。

物凄い熱風。飛び散る車の破片。立ち上る黒い煙。

焦げ臭い匂い。

「まだあの時、兄貴は生きてたのに。それなのに……。俺はそのまま意識を失って、気付いたら病院のベッドの上にいた」

数日後、両親と兄の死を聞かされた藤原くんは絶望し深い悲しみに暮れた。

怒り、悲しみ、絶望、後悔。

その感情を誰にもぶつけることができず、心が壊れてしまいそうだった。

どうして自分だけを残して逝ってしまったのかと亡くなった家族を責めたくなった日もあった。

なぜ自分だけが生き残ってしまったのか。なぜあの事故を防げなかったのか。

後悔ばかりが押し寄せる日々。

あの時ああすればよかったんじゃないか、こうすればよかったんじゃないか。

もっと自分に何かできたのではないか。

そんなたらればばかりが頭の中に浮かんでは消えていく。

現実逃避したことも一度や二度ではない。

夢だと自分に言い聞かせて眠りにつく。

夢の中で何度もあの事故の夢を見た。

そのたびになんとかして両親と兄を助けようとした。

でも、結局はどうやっても助けることはできない。

何度も何度も声の限り叫んだ。

助けてください、と。でも、結末は同じ。

目が覚めては絶望する毎日。家族の夢を見たあとは必ず涙を流していた。

生きる意味もこれから先の未来も見えない。

どんどん荒んでいく心。

そんな藤原くんの心の支えになってくれたのはおじいさんとおばあさんの存在だった。