藤原くんはわたしの腕を振り切って逃げようとする。

わたしは絶対に離さないという決意を込め、手のひらに力を込めた。

再び藤原くんが振り返る。

目が合ったとき、わたしの目から涙が溢れた。

お願いだから、逃げないで。

うなだれるように彼の腕にすがりつく。

「家まで来るとか反則だから。とりあえず、手、離してよ」

冷たく言い放つ藤原くん。わたしはブンブンと首を横に振ってそれを拒否する。

絶対に離さない。

だって、藤原くんはわたしが手を離せば逃げて行ってしまう気がする。

わたしの手の届かない場所へ行って帰ってきてくれない気がする。

藤原くんは自由で気まぐれで何を考えているのか分からない猫のような人だから。

「分かったよ。降参します。意外と頑固だなー」

その言葉は藤原くんの本心のような気がした。

わたしが恐る恐る手を離すと、藤原くんはため息をついてから濡れ縁に腰かけた。

「座んなよ」

立ち尽くすわたしを見かねて、藤原くんが自分の隣をポンポンッと叩いた。

頷いてから彼の隣に腰を下ろす。