学校が終わると、わたしは誰よりも先に教室を出る。

帰りのHRが終わる前には帰る支度を済ませておき、号令係が挨拶をかけHRが終わると同時にバッグを肩にかけて歩き出す。

窓際の席だから扉までは少し距離がある。

「ねぇ、これからどっか行かない?」「部活、今日体育館でやるってよ」「頭髪検査って明日だっけ?」

ざわつく教室内を斜め45度に視線を落とし扉に向かってまっすぐ突き進む。

教室を出ることがわたしの自由への第一歩。

ああ、そうだ。進級しても変わらないことがもう一つだけあった。

帰りのHRの後、わたしに話しかけてくる人はいない。

――はずだった。

「――結衣!」

名前を呼ばれて反射的に立ち止まり、斜め45度に落としていた視線を上に向けてしまった。

衝撃的だった。

例えるならば、頭のてっぺんに雷が落ち、つま先まで一瞬で電気が駆け抜けていくような。

そんなとてつもない体験をしてしまったような感覚。

床と足が一つの物体になってしまったかのようにくっついて離れない。

中学校の時、わたしはみんなに『結衣』と呼ばれていた。もう何年も前の記憶が蘇り苦しくなる。

懐かしさと苦しさの波が交互に押し寄せ動くことができない。

そうこうしている間に後ろから肩を叩かれた。