「みんな知っているかもしれないが、小松は学校でしゃべることが難しい。でも、コミュニケーションはとれる。みんなも小松の気持ちを理解して寄り添ってやってくれ」

稲富先生の言葉にクラス中が一瞬ざわついた。

「しゃべることができないってこと?」「耳は聞こえてるの?」「いや、俺にもわかんねぇし」「なんにもしゃべらないのかな?」「声はかけていいの?」

注目の的になり、唇をキュッと噛みしめる。

大丈夫。今までずっとこうやってやり過ごしてきた。

今回だって同じだ。みんな物珍しそうにするのは最初だけ。

4月は大嫌いだ。でも、4月だけの辛抱。

5月にはみんなわたしのことなんてどうでもよくなる。大体ゴールデンウィークが終わったあとには。

大丈夫。時間が経てばわたしは空気と同じような存在になる。

すると突然、藤原くんが振り返った。

「俺、藤原奏多。よろしくな」

にこりと笑った彼。眩しい。眩しすぎる。

彼はそれだけ言うとわたしの反応なんてお構いなしに再び前に向き直った。

彼の第一印象は太陽のような人。

わたしとは真逆のタイプの人間だった。