『俺と会話しよう。俺と結衣、二人っきりで話そう』

あの日、この場所でこのメモ帳とペンを渡してくれたのは藤原くんなのに。

『――俺は結衣を裏切らないよ』

その言葉は嘘だったの?

『これから先も一緒に過ごそう。約束な』

一昨日、そう言ってくれたじゃない。約束したのに。

分かんない。藤原くんの考えていることがわたしには全然わからないよ。

「悪いのは全部俺だから。ごめんな」

藤原くんがわたしに背中を向けて歩き出す。

どうして。まだ話は終わってないのに。一方的に言いたいことだけいって逃げるなんてそんなのひどいよ。

わたしは自然と藤原くんを追いかけていた。

藤原くんの前に回り込んで、背の高い藤原くんの顔を下から覗き込む。

どうしてそんなことを言うのか引き留めて聞きたかった。

むしろ一方的に連絡を取るのをやめようと言ってきた藤原くんを罵ることだってできたはずだ。

でも、わたしは藤原くんの姿に呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。

わたしには藤原くんが壊れてしまいそうなほど弱々しく見えた。

関係を断とうと言ったのは藤原くんのほうなのに、どうして藤原くんのほうがそんなに苦しそうなんだろう。どうしてひどく悲しそうなんだろう。

ねぇ、どうして?

藤原くんは言いたいことをすべて飲み込むかのように奥歯をギュッと噛みしめ、わたしから目を反らして歩きだす。