今なら、言える気がする。ずっと黙っていたこと。

わたしが場面緘黙症になったキッカケ。

「あのね……」

「なに?話して?」

「わたしが場面緘黙症になったキッカケは、中2の時……仲の良い子達に裏切られたからなの。悪口を言われて嘘つかれて仲間外れにされて…それを知ってから学校でしゃべれなくなっちゃったの」

キュッと唇を噛む。

あの当時のことを思い出すと今も苦しくなる。

でも、わたしは乗り越えたい。あの痛みを苦しみを。

「ずっと黙っててごめんね。友達に裏切られたこととか学校で友達とうまくいってないとか、お父さんにもお母さんにも知られたくなかったの。二人に心配かけたくなかったし、迷惑もかけたくなかった。でも、結局わたし……心配かけてるし、迷惑かけてるね」

「そうだったの……」

母の目にうっすらと涙が浮かぶ。

父もわたしの話に耳を傾けてくれた。

「高校に入ってからもずっと一人だった。しゃべれないっていうコンプレックスもあったし、誰かと関わってまた裏切られるのが怖くてたまらなかった。そんな弱虫の自分が大っ嫌いだったの。だけど、もう傷付きたくなかったから空気みたいに教室の中でじっと自分の殻の中で過ごしてた」

スーッと自然と頬を涙が伝う。

わたしはそれを手の甲で拭った。

「でもね、藤原くんだけは違ったの。わたしに声をかけてきてくれた。彼のことを拒んだこともあったけど、本当は嬉しかったの」

「結衣……」

「藤原くんと一緒に図書委員になって、川崎さんっていう3年生の先輩とも知り合えたの。わたしにアドバイスくれるすごく優しい先輩。わたし、藤原くんに出会ってから少しだけど変われた気がする。こうやって自分の気持ちを口にすることができるようになったのも藤原くんのおかげなの」

「藤原くんと出会えて、よかったね」

「うん」

母は黙ってわたしをギュッと抱きしめてくれた。

あたたかくて優しいぬくもりに包み込まれる。

「勇気を出して話してくれてありがとう。ずっと一人で抱え込んでて辛かったね。でも、これだけはちゃんと覚えておいて。結衣はお父さんにとってもお母さんにとっても大切な宝物よ」

「ありがとう……」

素直な気持ちを伝えるのは簡単ではない。

でも、心の中の気持ちを口にすることで何かが変わることもある。

ほんの些細なことをキッカケに前を向けることもある。