「あの子の気持ちは嬉しかったけど、その気持ちには答えられないから」

その言葉にわたしは自分でも驚くぐらいホッとしていた。

藤原くんの彼女という存在でなかったとしても彼のそばにいられればいいと思っていたはずなのに、欲張りなわたしは友達以上になりたいと願ってしまっている。

「それに、あの子と付き合ってたんだとしたら結衣とこうやって二人で会わないよ」

藤原くんはわたしを安心させるようにふっと微笑んでくれた。


【もうひとつ 聞いてもいい?】

「うん」

【始業式の日 どうして 私に声をかけてくれたの?】

『同じクラスだったんだなー』ってまるでわたしを知っていたかのように声をかけてきた藤原くん。

「前から結衣のこと知ってて気になってから」

【そうなの?】

藤原くんがクラス替え前からわたしを知っていてくれたなんて。

「同じ学年だし、廊下とかですれ違うこともあるじゃん?で、結衣のこと可愛い子だなーって最初はそれぐらいだった」

【うん】

「でも、いつも一人でいるなって気になってて。周りの人間との間に目には見えないバリアを張ってるみたいに見えた。そのとき思ったんだ。この子、兄貴に似てるって」

【そうだったんだね】

「そのあと、風の噂で結衣の話聞いたんだ。学校だとしゃべれないらしいって。それで思った。もしかしたら結衣も兄貴と同じ場面緘黙症なんじゃないかって」

【それで声かけてくれたの?】

「前から気になってたから。だから話してみたいなって思ってて。最初は相当ウザい奴だって思われて拒否られてたけど」

【あのときはごめんね】

膝にメモ帳とペンを置いてパチンと両手を合わせて謝る。