その瞬間、藤原くんのわたしを抱きしめる腕に力がこもった気がする。

藤原くんはあたたかい。そのぬくもりにいつまでも包み込まれていたい。

男の子にこうやって抱きしめられた経験なんてないくせにそんなことを思ってしまった。

「このままじゃ俺、止まんない」

藤原くんは困ったように言うと、そっとわたしの体から腕を離した。

藤原くんの体温が消えた体を持て余してしまう。

わたしの足元に猫が頭をこすりつけてニャーと鳴いた。

ハッとする。そうだ。ここは猫カフェだった。

今起こった出来事を客観的にとらえられるぐらい冷静になる。

途端、ものすごいことをしてしまったという気がしていてもたってもいられなくなる。

高ぶってしまった心臓の音と真っ赤になった顔を藤原くんに見られないように、わたしは腰をかがめて猫の頭を撫でながら藤原くんに背中を向けた。

「猫、可愛かったなー」

猫カフェを出ると、さっきの出来事が嘘であるかのように藤原くんの態度は普段と同じだった。

「まぁ大半の時間は白黒の猫の寝床にされてたけど」

ソワソワと落ち着かないでいるのはどうやらわたしだけのようだ。

藤原くんはわたしと違ってモテるし恋愛経験は豊富だろう。

さっきのだってもしかしたら藤原くんにとっては挨拶程度のものなのかもしれないし。

自分自身にそう言い聞かせてみたものの、自滅する。

なんだかそれはそれで悲しいし、胸が痛い。