そんな。嘘でしょ。ちょっと、待って。

あっ、どうしよう!

異常事態だった。

猫カフェの中へ足を踏み入れた瞬間、餌を手にしたわたしは数十匹の猫に囲まれて身動きが取れない状況になってしまった。

お客さんはわたしと藤原くんのふたりだけ。

「結衣、人気者だなー」

藤原くんは慌てているわたしを見てケラケラ笑うと、スマホのカメラで餌をあげるわたしを写真におさめていた。

餌がなくなるまでの間だけわたしは猫たちに大人気で、餌がなくなった途端に猫たちは面白いほどにあっさりとまるで潮が引くようにわたしの元を去っていく。

こういうところも猫の可愛さのひとつ。思わず笑顔になる。

もふもふとしている毛の長い高級猫や雑種と思われる猫。大中小様々な猫たちとわたしは我を忘れてたわむれた。

あぁ、このままずっとここで生活したい。

足元にすり寄ってきた猫の背中を撫でながらふいに藤原くんに視線を向ける。

「結衣、助けて。俺、まったく動けない」

部屋の片隅にあぐらをかいて座っている藤原くんの足の上に白黒の猫が気持ちよさそうに体を丸まめて眠っている。

困り果てている様子の藤原くんを我が物顔で占領して寝床にしている白黒猫。