休みの日にこうやって一人で出かけるのは数年ぶり。

向かいの家の柴犬がワンワンっと吠えながらしっぽを振る。

「今日も元気だね。いってきます」

そう言って振り返してくれることはないと分かっているのに、自然と手を振ってしまっていた。

浮かれている。今のわたしを第三者が見たらその一言で表せるだろう。

わたしは自分でも信じられないぐらい心を弾ませ、浮かれていた。

体に癖が染み込んでいた。

曲がり角まで来て振り返って手を挙げようとした。

母がいつも家の前に立って手を振ってくれていたから。

でも、いなかった。母は家の前にはいない。

中2のあの日から毎朝わたしを見送ってくれていた母の姿がない。

「お母さん……」

母の気持ちが痛いぐらいに伝わってくる。

ねぇ、お母さん。ありがとう。

今まで何も言わずにわたしを見守っていてくれて。

陰で支えてくれてありがとう。

ふぅと息を吐くと胸の中がふわっと軽くなった。