さっきまで何とか必死に平静を装っていたけれど、名前を呼ばれた途端、心臓が痛いぐらいに激しく暴れ出す。心臓の音がまわりにまで聞こえているんじゃないかと思うぐらい大きな音を立てて鳴る。

胸がつまるような苦しみを覚えて、大きく息を吐きだす。

何も言えない。

黙っているわたしにクラス中の視線が一斉に向けられた。

わずかな好奇心を含んだ瞳に呼吸が荒くなる。

ギュッとスカートを右手で握り締める。

よし。立ち上がろう。

いつのまにかじっとりと手のひらに汗をかいていた。

きつく握り締めた手のひらをスカートから離すと、心細さに泣きたくなる。

足が小刻みに震え、立ちあがるのすらやっと。

スカートを握りしめられないかわりに手のひらを痛いぐらいに握りしめる。

「てかさ、あの子って小松、でしょ？なんで名前の順なのにあそこの席なの？」

目は閉じられても、耳は塞げない。

聞き流すことができるほどわたしはまだ大人ではない。

いや、きっと大人でも聞き流せないこともあるだろう。

聞きたくない話ほど、嫌でも耳に飛び込んでくる。

聞こえなければ幸せなのに。不用意に傷付くこともないのに。