「それにね、わたしのことを分かってくれる人が数人いたの。家族と親友と……今付き合ってる彼氏。そのときに思ったの。この世の中で全員が敵に回ったとしても私の味方になってくれる数人がいてくれればいいって。わたしはたくさんの人に愛されてるし、一人じゃないって思ったらすごく心強くて。自分のことも大切にしてあげようって思えた。私も中学時代、『わたしなんて』って何度も思ったよ。劣等感の塊だった。きっと私と小松さんは似ているところがあると思う。だから、小松さんの先輩として一言アドバイス」

川崎さんはわたしの頭を優しく撫でてくれた。

「好きな人には好きって言わなきゃ。愛してほしいなら、自分が相手を信じて愛してあげないと。誰かを好きになるのに資格なんていらないよ」

川崎さんは目が合うと、まるで頑張ってと言っているかのように優しく微笑んでくれた。

自分の辛い過去を打ち明けてまでわたしを励ましてくれた川崎さん。

ペンを掴んでお礼を書き込もうとした。

でも、わたしはそのペンを机に置いた。

不思議そうに川崎さんがわたしの顔を覗き込む。

言いたい。ありがとう、と。

わたしの今の気持ちを川崎さんに伝えたい。

「っ……っ……」

ありがとう。その言葉を伝える為にわたしは喉の奥の違和感と必死に戦った。

喉がヒリヒリと痛んで苦しくなる。

肩が上がり、顔が歪む。

言いたいのに、言えない。もどかしいこの気持ちに目頭に涙が浮かぶ。

すると、川崎さんが

「どういたしまして」と微笑んだ。

「こちらこそ、ありがとう。小松さんの気持ち言葉にしなくてもちゃんと伝わったから。ちゃんと私に伝わってるから」

川崎さんがそう言ったと同時に図書室の扉がガラガラと開いた。