「あの日……あの事故の起きた日、奏多がうちに電話をかけてきたの。ばあちゃん、今日家族4人でばあちゃんちの近くの桜を観に行くからって。緑が丘公園の桜は毎年遅咲きだから今からでも間に合うって家族を説得したんだってやけに張り切っててね」

おばあさんはお兄さんの場面緘黙症のことにも触れた。

お兄さんが学校でしゃべれなくなってから藤原くんの両親はお兄さんにかかりっきりになった。

何もかもお兄さん優先の生活。それが面白くなかった藤原くんはお兄さんにつらく当たった。

ほんの少しの淋しさの裏返しだったに違いない。

そんな時、藤原くんのお兄さんが何気なく『桜を見たい』と口にしたのを聞いた。

だから事故の日、藤原くんは両親とお兄さんを誘って隣県であるおばあさんの家の近くの緑ヶ丘公園で桜をみることにした。

「奏多はね、昔から洸多のことが大好きだったのよ。性格は違ったけど仲の良い兄弟だったの。奏多は昔から不器用なところがあってね。だから、あの日、桜を見上げながら兄の洸多に謝りたかったんだと思うの。でも、結局それも果たせなかった」

おばあさんの鼻をすすりながら目頭に浮かぶ涙を拭った。

「あの子、あの事故の後ずっと自分のことを責めていたの。俺が緑が丘公園へ行くって言わなければ3人は死ななかったのにって。それと同時に、不思議なことを言い出して」

「不思議なこと……ですか?」

「4月28日、事故にあう夢を何度も見たって言うの。本当は4人で死ぬはずだったってしきりに言うから病院の先生や親戚も精神的なダメージが影響してるんだろうって心配しててね。だけど、あの子私には1か月前に遊びに来た時に……言ってたの。4月28日に4人が交通事故にあって死ぬ夢を見たって」

「え……?それは……予知していたってことですか?」

1か月後に起こる出来事を夢で見た……?

それが正夢になったっていうこと?