【でも藤原くん、今はちゃんと場面緘黙症を理解してるよね?】

【私のことも理解してくれたでしょ?】

「今は前より少しは理解できてるつもり」

【それならきっとお兄さんに伝わってるよ】

「ありがとう。でも、少し遅かったんだ。兄貴はもういないから」

耳を震わせた藤原くんの声にわたしは一点を見つめたまま動けなくなった。

隣を見てはいけない気がした。藤原くんの声がほんの少しだけかすれたことに気が付いたから。

雨が小降りになってきた。でも、まだ空の色は濃い灰色だ。

「つーか俺ら、すごい濡れてるな。このままじゃ風邪ひく」

藤原くんはスッとベンチから立ち上がるとわたしの手を掴んだ。

「行こう」

わたしは藤原くんに言われるがまま立ち上がると、手を引かれて歩き出した。

緑ヶ丘公園を出てからしばらく歩くと二階建ての一軒家に辿り着いた。

広大な土地の片隅には軽トラックや農作業用品が置かれている。

玄関周りには来訪者を歓迎するように色とりどりの花が咲き誇っている。