「担任の話だと、4月のクラス替えの後の自己紹介だろうって。自分の名前を言うときに盛大に噛んだらしくて。それをクラス中が煽って笑ったらしい。兄貴って人前でしゃべんの苦手なタイプだったから笑われたことが相当堪えたんだと思う。周りのクラスメイトも悪気はなかったんだろうけど、キッカケはたぶんそれ」

【そうだったんだね】

いつでもどこでも誰でも。

ほんの些細なことをキッカケに深く傷ついてしまうこともある。

たとえ相手に悪意がなかったとしても。

それぐらい人はもろいのかもしれない。

「家では普通にしゃべってんのに学校に行くとしゃべれなくなるっていうのが小学生の俺にはよくわかんなくて、兄貴のことが理解できなかった。それで、結構きつく当たっちゃってさ。『なんで学校でしゃべんないんだよ!』『しゃべれない振りしてんの?』って心無いこと言ったりもした。でも、兄貴、怒らなかったんだ。困ったように笑いながら『こんな情けない兄ちゃんでごめん』って謝ってばっかりだった」

困ったように笑ってしまう藤原くんのお兄さんの気持ちが痛いほどによくわかる。

きっとどうしようもなかったはずだ。

話すことができなくなってしまった自分を責めたりしたことも一度や二度ではないだろう。

「学校でも周りに気を遣ってたのに、家でも弟の俺に気を遣うなんて大変だったはずだって今ならわかる。どうしてあの時の兄貴の気持ちを少しでも理解してあげられなかったんだろうって今でも後悔ばっかりだ」

藤原くんの顔に何故か暗い陰が差す。

いつも笑顔の藤原くんが見せた弱さに心の中がギュッと痛む。