すると、ぽつりぽつりと大粒の雨が地面を叩いた。

顔を持ち上げると、頬に雨粒がぶつかった。
「結衣、行こう!!」

藤原くんはわたしの手を掴んだまま駆け出す。

雨は勢いを増し、人々が雨を避けるように散り散りに四方八方へ逃げていく。

急に泣きたくなった。声を上げて。

でも、それすら今のわたしにはできない。

ああ、ダメだ。この天気のせいなのか、さっきの出来事のせいなのかは分からない。

ネガティブな感情がまるでコップに溜まった水のようにあふれ出る。

満杯になっても水は注ぎこまれ続ける。溢れた水は留まることを知らない。

「ここなら雨はしのげるな」

公園にある屋根付きの休憩舎のベンチに揃って腰掛ける。

「すげー雨。春の嵐ってやつだな」

藤原くんの綺麗にセットされた前髪がおでこにくっついている。

それを手でかきわけるそんな仕草も悔しいけれど魅力的だ。

わたしは震える手でペンとメモ帳を取り出してこう記した。

【場面緘黙症】

藤原くんはメモ帳に記された文字をジッと食い入るように見つめている。