「この写真館以外でも、寝るのを惜しまず働いてるんです。親父から譲り受けた__っていっても、無理やり押し付けられたんですけど、やっぱり潰したくなくて。お店を畳まないために、よそで身を粉にして働く、そんな毎日ですよ。そりゃ、女房も子供連れて出て行きますって」
やや投げやりに言う菊池さんは、実年齢よりかはずっと老けてみえた。
心に余裕がないんだろう。
それくらい、お店を守ることに必死なんだ。
「だから過去に戻って、お店を引き継ぐのを止めようかと思ったんだけど、未来に来たみたいで。それももう潰れてるし」
と、アヒルマークのタピオカドリンクを持ち上げる。
「ああでも、どうして君は僕が過去から来たってわかったの?」
今さらながら、不思議そうに首を傾げる菊池さん。
「それは__僕もたい焼き屋だからです」
「たい焼き屋さん?あれ、でも僕が買ったのは女の人からだったけど?」
「僕の師匠ですね」
頷いて答えた。
菊池さんがやってきたのは、20年も前だ。
それならなおさら、ちゃんと帰ってもらわないといけない。
命をかけて守ってきたお城は、違うお店になっていた。菊池さんの体から力が抜けてしまったのは仕方がない。それでも、未来は変えられない以上は、せめて背中を押してあげられれば__。