40代後半だろうか?
でも男性の顔からは、なにかが抜け落ちているように見える。
ただ呆然と立ち尽くし、マリさんのお店をぼんやりと眺めていた。
この人どこかで?
見覚えはないのに__面影はある?
「あの、どうかされましたか?」
そう尋ねて、はたと気づいた。
迷子だ。
親とはぐれて迷子になり、今にも泣き出しそうな顔をしていた__。
「あのっ」と反対に聞き返してくる。
「はい?」
「ここ」
マリさんのお店を指差し「いつからやってんですか?」と言う。まるで、納得がいっていない様子で。
「まだ先月からです」
「先月?」
「はい、その前の写真屋さんがお店を辞めてしまったので__?」
途中で言葉を切ったのは、明らかに男性の反応がおかしかったからだ。
「写真、屋?」
「かなり長くお店をされてたんですけど、それで空き店舗を改装してタピオカ屋さんになりました」
僕が説明すると、男性は顎をかいた。
うっすら髭が生えている。
「あっ」
思わず声が出てしまった。
顎をかく仕草で思い出したからだ。
お店を畳んだ『菊池写真館』の店主が、考え事をするとよく顎をかいていた。
男性は、過去の菊池さんだ。