「そういえば、ひな祭りですね」
おかしな空気を和らげようと、僕は話題を変えた。
この大丸商店街も、BGMにお雛様の歌が流れている。ひな祭りには毎年恒例、結婚式が行われるんだ。お内裏様とお雛様に見立てた新郎と新婦が、アーケード内を練り歩く。
各店舗の店先では、雛人形を飾って祭りを盛り立てていた。
ちょうどその日は定休日のため、僕は組合員としてお祭りを支えることになっている。
つまり、実行委員だ。
「今年はすんなり花嫁が見つかったからな」
ご満悦に頷く組合長。
例年はこの夫婦探しに苦労する。立候補はあっても、面接をしてみると冷やかしだったりと大変なんだ。
それが今回は、揉みじやの由梨さんが務めることになった。本人は相当いやがっていたらしいけど、お祭り好きな牧子さんのために引き受けたらしい。
「それよか、あっちの準備は大丈夫か?」
「なんで俺に言うんだよ?責任者は亀だろうが」
楽さんが亀さんを指差す。
「ひとを指差すんじゃねーよ。ちゃんとやってんだろうが」
亀さんが珍しくいきり立ち、タピオカが詰まったのか吾郎さんがむせた。
なかなかに空気は固い。
なんだかんだいって全員が頑固で強情なんだ。
ようやくたい焼きが焼き上がり、僕はほっと息を吐いた。
その時、調子っぱずれの鼻歌が__?
「おい吾郎、それってあれか?」
源さんが歌いだす。
「まいにち、まいにち、僕らはてっぱんのぉー」