「源さん、それって__?」

僕は素知らぬふりを装い、源さんが持っていたカップを指差す。

透明なカップには、黒いブツブツしたものが見えて、その表面には可愛らしい『アヒル』のイラストが__。


「ん?」と慌てて隠すも「いや、見回りしててな」と弁解する。

「たい焼き、マリさんに差し入れですか?」

「いや、うん、まぁな。頑張ってくれてるからな」

やや歯切れが悪い。



「流行ってますよね、冬なのに」

「なんだ、ブームなんだろ?このタペオカ」

「みたいですね」

あえて訂正はせず、僕は鉄板を蓋し、たい焼きを焼き上げる。


先週に開店したマリさんのタピオカ専門店は、連日長蛇の列だった。

源さんは組合長と称して、しょっちゅう入り浸っているという噂だ。


それはなぜかというと__。

「2枚くれ」


入ってくるなり注文した亀さんが「あっ」と源さんを見ると顔をしかめた。

後ろ手になにかを隠しながら。


「なんだ、おめぇーも飲んだのか?流行りもの好きだなぁー」

源さんがからかう。


「そっくりそのまま返してやるよ」

亀さんも負けてはいない。


そこに「2枚あるかな?」と吾郎さんがやってきた。



その手に、タピオカミルクティーを持ちながら。