雨の中、犬小屋の前で突っ伏す大将。胸を押さえて震えているが、反対の手には、団子がしっかり握られている。
「__コ、コロ」
か細い声に、コロは何かを感じ取ったのか大将の周りを回っていた。
どうすることもできない。
未来を、変えることはできない。
大将は心臓発作で亡くなり、みかども閉店する。跡を継ぐ子どもも居なかったた。そして行き場をなくしたコロは、路頭に迷うことになる。
これは、変えられないんだ。
僕が今、助けを呼んだところで変えられない。
「コロっ」
声を振り絞って、愛犬の名を呼ぶけれど__わんっ!とひと鳴きすると、コロはどこかに駆けていった。きっと助けを呼びに行ったのだろう。
その瞬間、ずっと僕の足元で動かなかったコロが飛び出していく。
くんくんと、大将の匂いを嗅いでいる。
大将と、大将が持っているみたらし団子を確認すると、その場に伏せた。
「コロ、か?」
おとなしく伏せているコロを見て、大将が柔らかく笑った。
「ありがとな」
コロが前脚を何度かばたつかせ、ほふく前進するように歩み寄る。
それを見ていた僕は、どうしてコロが餌を食べなかったのか分かった。
誰がやってもダメだったんだ。
だってずっと「待て!」のままだったから__。
「コロ」
大将が、言った。