焼き上がったたい焼きは、しばらく粗熱を取ってから苴(かいしき)に乗せる。かいしきとは、料理の下に敷く紙のことで、ありきの場合は木の薄板を使っている。

ちなみに、5枚まとめて包装する時も、この木のかいしきで包み込む。


木は蒸気を吸い取ってくれるし、なにより優しい肌触りがいい。



「お待たせしました」と、3人に手渡す。


まずは源さんが新聞を片手に、ぱくりとかぶり付く。

亀さんはいつも尻尾から食べ始め、猫舌な吾郎さんは半分に割ってふぅーふぅーと冷ましてからアンコを啜る。


どうやら、合格のようだ。



お店を始めた当初は「あんこが甘い」だ「皮が分厚い」だ散々だった。3人が無言で食べ始めるようになったのは、3年目に入った頃だ。けれど今でも気を抜くと「あんこが柔らかい」と指摘がある。


「おい『弁慶』のせがれと『マリーン』のママどうなった?」



源さんが新聞からようやく目を離す。

「母親くれぇーの年増の女と駆け落ちとはな」

「俺が聞いた話じゃ、フィリピンに逃げたって」


亀さんと吾郎さんが、それぞれ小声で言ったつもりだろうが、僕の耳には筒抜けだ。



「それがよ、帰ってきてんだよ」

源さんがにやりと笑う。