『みかど』が再開するというニュースは、瞬く間に商店街に流れた。
大将がひとりで切り盛りするため、団子は昼には売り切れることが多かったが、あの優しい味がまた食べられると、連日お客さんで賑わっていた。
それでも散歩は欠かさない。
コロを連れて散歩に行く姿は、大丸商店街の風物詩となりつつある。
やえさんが亡くなって5年、大将はすっかり覇気を取り戻し、コロは完全な成犬となっていた__。
雨が降っている。
「遅くなったな」
大将はのれんを片づけ、犬小屋のコロに声を掛けた。
お店が終わってからお墓詣りに行くのが日課だったけれど、今日は雨でお客さんの足が遠のき、売り切れたのは夕方前。
ようやく散歩に行けると分かったコロが、雨の中でくるくると回る。
「団子、食うか?」
いつも、コロのためにみたらし団子を一本残しておくんだ。
串に刺さったままの、丸くて平たいみたらし団子。
鼻先に突き出されたコロは、すぐに大口を開けたが__。
「待て!」
大将の声に、ぴたっと止まる。
光った蜜が団子から垂れるのと、コロの口からヨダレが垂れるのはほぼ同時。
そして従順な愛犬に満足し、にこりと微笑んで「よし!」と許しを出す。
今まで何度となく見守った、そんな2人のやり取りだったが__。