やえさんが亡くなって、3日が経った。

みかどには、大将のことを心配して商店街の仲間が入れ替わり立ち替わりやってきたが、大将が出てくることはなかった。


「おめぇーの飼い主、大丈夫か?」

源さんが、犬小屋に閉じこもっているコロに声をかける。


大将が外に出てくるのは、コロに餌をあげる時だけ。いつものように『待て!』と、お預けを食らわす。

「退院祝いだったのに、ろくに世話もしないで居なくなったなぁ」



遠くを見てぼんやりと呟いたかと思うと、鼻をすする音がした。

大将が、声を押し殺して泣き出したんだ。


それをコロは、どうしていいか分からないといった様子で見ている。

「ああ、あっ、腹へったか」


コロの頭をわしゃわしゃとかき回し『よし!』と言った。



待ってましたとばかりに、餌に食らいつくコロを今度は大将が見守る。

「なんだか、臭いな」



初めて気づいたのか、顔をしかめる。ご飯はやるが、散歩には連れていっていない。

「怒られるな、ちゃんとしないとな」



すでに食べ終わったコロが、大将に体をすり寄せる。

「散歩、行くか?」


『散歩』に大げさに反応するコロは、跳び上がって喜んでいる。

半ば引きずられるように駆けていく後ろ姿を、僕の足元でコロは静かに見つめていた。