コロは、見る見るうちに大きくなっていく。
それとは逆に、やえさんがどんどん小さくなっていき__。
「かあちゃん、また居なくなっちゃったな」
大将が、コロの頭を撫でながら呟いた。
再び病魔に襲われたやえさんが、入院をしたんだ。みかどに戻ってきたのは、たったの1ヶ月。初め大将ひとりでお団子を作っていたが__とうとうお店を休むことになった。
病院とお店を行き来する毎日。お客さんの居ないお店に戻ってくるのは、コロに餌をあげるため。
「待て!」という指令に、コロがぴたりと止まる。餌を食べたい気持ちと、言いつけを守るという気持ちの間で、しまいには唸り出したが__コロは絶対に勝手には食べようとしない。
「よし!」という、大将のお許しが出るまでは。
がつがつと、お皿に顔を突っ込んで食べるコロの頭を、大将はずっと撫でていた。
僕の足元でじっとしていた、成犬のコロ。
過去に戸惑うこともなく、移りゆく記憶の中で佇んでいたコロが__。
『くぅー』
初めて、喉を鳴らした。
「ん?」と大将が振り返る。
コロの尾っぽが揺れた。
本当は飛び出していきたいんだろうけど、コロはその場に体を伏せてやり過ごした。
過去が、流れていく。