『みかど』の朝は早い。

まだ朝日が顔を覗かせる前から、もち米の蒸気が立ち込める。


一つずつお団子を作り、串にさしていく作業は地味だけれど大変なものだった。

開店前から、常連さんたちが絶え間なくやってくる。


注文が入ってから焼き上げるため、その間にお茶を出したりと、やえさんは病み上がりにもかかわらず働き通しだった。

「ごめんなさい、売り切れちゃって」


そんな言葉を聞くのも珍しくない。

儲けの為というよりは、お団子を楽しみにしてくれるお客さんのために営業している、みかどはそんなお店だった。


「コロ、ご飯よ」



お店の脇の犬小屋で、芝犬のコロは尾っぽをフリフリしてはしゃいでいる。

「おすわり!」

やえさんが言うと、コロはちょこんとお座りを__しない。


ご飯が嬉しいのか、その場でくるくると回る。


当然「お手!」もできない。

けれど。


「待て!」と後ろからやってきた大将に、コロはピタリと動きを止めてじっと餌と睨めっこをする。

「あなたの言うことしかきかないじゃない。私が名前をつけたのに」


「待ては分かるみたいだな」

「私の時は言ってもダメよ。すぐ食べちゃうから」


やえさんが頬を膨らませる。

そういうところ、可愛らしいおばあちゃんといった感じだ。


2人はとても仲がいい。

コロを間に挟んで、よく散歩をしていた。


僕も、そんな後ろ姿に心があったかくなったのを覚えている__。