「邪魔するぜぃ!」
ガラガラと無遠慮に入っていくのは、源さんだった。
引き戸の窓が開いており、みかどの大将との会話が丸聞こえだ。そうじゃなくても、源さんの声は大きいから筒抜けなんだけど。
「これ、特上ロースな。やえちゃん、帰ってくんだろ?」
「今日、迎えに行ってくる」
「これ食わして、元気つけてやれよ」
とても食べ切れる量じゃない肉の塊を、どんっと置く音がした。
そういえば、2人とも年代は同じ。
大将の奥さんはやえさんといって、いつも優しい笑顔で迎えてくれたっけ。そのやえさんが病気で入院したと聞いたのは、もうずっと前だ。
源さんたちとは違い、大将とやえさんはよく腕を組んでアーケードを散歩していた。商店街1のおしどり夫婦だ。
「じゃ、今度すき焼きにでもするかな」
困ったように笑う大将の気持ちが、僕には痛いほどわかる。
一体、何人が差し入れにきただろう。
みんなの心遣いで、お腹がはち切れそうだった。
「ん?そいつなんだ?」
「可愛いだろ?」
「犬っころか?名前は?」
「名前はまだ__ない」
「なんだそれ、漱石かよ!」
げらげらと笑う源さんに、まだ幼い芝犬の鳴き声が重なる。