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甘い匂いが鼻を撫でる。

それはとても優しい、まろやかな香り。


そこは、よく知っている場所だった。



古い作りの平屋から、がたがたと戸を軋ませて現れたのは__『みかど』の大将だ。ということは、これは過去になる。少し先の茂みに隠れ、銅像のように座って動かない、コロの記憶。

尾っぽが跳ねた。


たい焼きの尾っぽよりずっと、反り返っている。



今にも飛び出すんじゃないか?きっとコロが、1番に会いたかった相手なのだから。


わずかに鼻を鳴らし、前足で地面をかくコロは飛びつきたいに違いない。



けれど、そうしなかったのにはわけがある。

「なんだ?」


暖簾(のれん)を出しに来た大将は、足元に屈んだ。



コロと同じように、木陰から首を伸ばすと__きゃん!という鳴き声が聞こえてきた。

あれは、子犬?


「なんだ、捨てられたのか?」

目の前の高さに持ち上げる大将が、どうしたものかと辺りを見回している。



お店の前に捨てられていた、小さな芝犬。

ただ、尾っぽだけはふるふると震えていた。


しばらく考え込んでいた大将が「参ったな。母ちゃん居ないしな」と、途方に暮れていたが__。



「お前、団子くうか?」