2
甘い匂いが鼻を撫でる。
それはとても優しい、まろやかな香り。
そこは、よく知っている場所だった。
古い作りの平屋から、がたがたと戸を軋ませて現れたのは__『みかど』の大将だ。ということは、これは過去になる。少し先の茂みに隠れ、銅像のように座って動かない、コロの記憶。
尾っぽが跳ねた。
たい焼きの尾っぽよりずっと、反り返っている。
今にも飛び出すんじゃないか?きっとコロが、1番に会いたかった相手なのだから。
わずかに鼻を鳴らし、前足で地面をかくコロは飛びつきたいに違いない。
けれど、そうしなかったのにはわけがある。
「なんだ?」
暖簾(のれん)を出しに来た大将は、足元に屈んだ。
コロと同じように、木陰から首を伸ばすと__きゃん!という鳴き声が聞こえてきた。
あれは、子犬?
「なんだ、捨てられたのか?」
目の前の高さに持ち上げる大将が、どうしたものかと辺りを見回している。
お店の前に捨てられていた、小さな芝犬。
ただ、尾っぽだけはふるふると震えていた。
しばらく考え込んでいた大将が「参ったな。母ちゃん居ないしな」と、途方に暮れていたが__。
「お前、団子くうか?」