「コロ、おいで!」
優しい声で手を差し出すと、さらに唸り声は大きくなる。
たい焼きを奪われまいと、今にも飛びかかってきそうで__。
飼い主をなくすと、こうも変わってしまうものなのか?
いつもアーケードの中を、のんびりと歩いていた。
確かに人懐こくはなかったけど、こうやって唸ることもなかった。時折、リードの先を見上げて、飼い主の歩幅に合わせて歩いていたように思う。
「このままじゃお前、捕まるんだぞ?」
言葉が通じるはずもなく、食べかけていたたい焼きが地面に落ちると、残りに食らいつく__。
「待て‼︎」
商店街中に響き渡るような声を上げると、びくっと体を震わせたコロは、しばらく僕を見つめたあと、駆けていった。
そしてその姿が、闇の中に消えていく。
見えなくなったんじゃない。
消えたんだ。
果たしてコロは、どっちに行ったんだろう?
過去か?
それとも未来か?
地面に落ちている、残りのたい焼きを拾い上げる。
「はぁー」
大きくため息をついた僕は、たい焼きについた土埃を手で払った。
ひと口だけ、かじる。
あんこの甘みの中に、苦味が広がり__。