「うーっ、寒」
マフラーを鼻先にまで上げ、僕は自転車にまたがる。
商店街はもう、半分以上がシャッターを下げていた。
今からは提灯の出番だ。
陽気な歌声が聞こえてくるのはスナック『綾乃』だろうか。これだけ寒いと人通りもなく、僕はアーケードを突っ切って、行き止まりに着くと自転車を下りた。
ライトアップされた、風神雷神が出迎えてくれる。
その向こうには、日本三代観音の一つが威風堂々と佇んでいた。
他の二つの観音様とは比べものにはならないけれど、ちゃんと五重の塔だってある。遠方からの参拝客も最近は多くなってきた。
自転車を引いて、境内に入る。
お賽銭はいつも5円だ。
『今日も無事に終わりました。明日も良いご縁がありますように』
両手を合わせ、しっかりと感謝をする。
これが僕の日課であり、1日の締めくくりだった。
「よしっ」
明日も頑張ろうと気合を入れ、立てかけてあった自転車に__?
僕は足を止めた。
なにかが聞こえる。
不穏な、唸り声が__。
暗がりからぬっと現れたのは、犬だった。
すぐにコロだと分かったけれど、低く唸る芝犬はいきなり飛びかかってきた!