あたしは、チャイムを押した。
なんなら連打してやった。
「由梨、どうしたの?こんな時間に」
出迎えてくれた高橋昇(のぼる)の顔をまじまじと見つめる。
あたしを呼び捨てにするなんて、1000000年早いっての!
「いったい、どう、した__の?」
言葉が尻すぼみになったのは、あたしがたい焼きを持っていることに気づいたからだ。
紙袋いっぱいの、たい焼き。
昇の目元が、柔らかくなる。それは、懐かしさを運んできた。
「やっと、気づいたんだ?」
「なんで黙ってたのよ?面白がってたわけ?」
たい焼きを昇の胸に押しつける。
「違うよ。気づいてほしくてさ」と薄っすら微笑む昇は、あたしが知っている原田とは似ても似つかず__。
「そもそも、変わりすぎ!それに苗字が違う!」
「ああ、僕も両親が離婚したから。由梨ちゃん、僕のこと名前で呼んでくれなかったし」
「き、気づくわけない!」
「それはカッコよくなったから?」
にんまり微笑む昇に、ぐっと言葉に詰まる。
は、は、原田のくせに‼︎
「約束どおり、カッコよくなったよ?だから今度は、由梨ちゃんが約束、守ろうか?」
「や、約束⁉︎」
「そう。僕と、結婚してほしい」
弱くて泣き虫で、あたしの後ばかりついてきた原田。
あたしの側から離れることがなかった原田。
約束どおり、あたしを迎えに来てくれた原田。
あたしは、頷いた。
原田のくせに、と。