5
「おかえりなさい」
僕は、そっと声をかけた。
元の時代に戻ってきた、由梨さんに。
寝ぼけ眼をこすりながら、由梨さんは何度か目を瞬かせる。
ここがどこか、ようやく思い出したようで__。
「知ってたんでしょ?」
「えっ?」
「あいつが、過去にいるって。だからうまいこと言って、あたしを過去に送り出したんじゃないの?」
「僕はそんなに器用じゃないですよ」
とは言ったものの、由梨さんはまったく信じていない様子だ。
未来に行きたいと言っていた由梨さんは、過去に行った。
そしてそこで、答えを見つけたんだ。
「ねぇ、まだいい?」
少し照れくさそうに続けた。
「たい焼き、欲しいんだけど」と。
「いいですよ。いくつですか?」
僕は尋ね、焼く準備をする。
牧子さんか、それとも誰かに買っていくのか、あんこ好きな由梨さん自身が食べるのか__?
「いっぱい、欲しいの」
「いっぱい?」
「そう、紙袋から溢れるくらい」
「わかりました」
ひとつ頷いて、たくさんのたい焼きを焼いた。そりゃもう、大漁だ。
溢れんばかりのたい焼きを胸に、由梨さんが出ていく。
その顔は、少し意地悪そうに見えた。