母さんに、叩かれた。

頬を2発も叩かれた。


叩かれた暁(あかつき)には、晴れて父さんについていくはずだったのに。

怒りはこれっぽっちも湧き上がってくることはなかった。



そしてあたしは「母さんについていく」と言ったんだ。

引っ越しはすぐに決まった。



原田が、お母さんと一緒に挨拶にやってきたけれど、ろくに目も合わさず別れの時がやってくる。

「じゃあね」


この世の終わりみたいな顔をしている原田に、軽く手を上げた。

これから、あたしが居なくても1人でやっていけるだろうか?



「由梨ちゃん」

「やられたら、倍やり返すんだからね!」

車がゆっくり走り出す。


助手席から顔を出し、なんとも情けない顔で泣きべそをかいている原田に、手を振った。


「由梨ちゃん!大きくなったら、迎えに行くよ!」

原田が、追いかけてくる。



「ちゃんと強くなって、迎えに行くから!」

「じゃ、もっと痩せてよね!あたし太ったやつ嫌いだから!」

「うん、痩せるよ!」

「それから、もっとカッコよくなってよ!」

「うん、カッコよくなる!」


息を切らして駆けてくる原田はもう、泣いてはいなかった。



「だから由梨ちゃん、僕と結婚して!」


それだけ言うと、原田はすっ転んだ。

あたしは思わず吹き出してしまった。一世一代のプロポーズに、笑ってしまったんだ。



でも。