終点は、見知らぬ漁港だった。

もう辺りは薄暗くなっていて、より一層、原田がまとわりついてくる。


「由梨ちゃん、帰ろうよ」と。



「帰りたきゃ1人で帰れば?」

「一緒に帰ろうよ」

「やだ!」

胸を小突いて、突き放す。


正直なところ、バス代で全財産がなくなったとはカッコ悪くて口にできない。原田はまだお札を持っていたから、電車にでも乗って帰れるだろう。

ここで素直に帰るのは、あたしのプライドが許さない。


「お腹すいた」

「えっ?」

「お腹すいたって言ってんの!」

強めに言うと、原田の顔がぱーっと輝いた。


自分もお腹がすいていたのか、あたしに求められたのが嬉しかったのかは分からないけど「ちょっと待ってて!」と、どこかに行ってしまった。

「あーあ」


1人になると、途端に後悔が襲ってくる。

母さんにこっぴどく怒られるだろう。



叩かれるかもしれない。どうせ、あたしが原田を連れ出したことになるんだ。あいつが勝手についてきたなんて、誰も信じないんだから。

そうだ、叩かれたら__その時は父さんのところに行こう。


これで心置きなく父さんと暮らせる。

うん、そうだそうだ。


無理に自分を納得させていると、原田が戻ってきた。



胸になにかを抱えている。

それは、たい焼きだった。