「そんなの、嫌」
「嫌じゃないの、もう決まったこと。母さんたちを困らせないで」
「そんなの、なんかずるい!」
「由梨も、大人になれば分かるから」
「じゃ、大人になんかならない!」
「無理いわないの!もう子供じゃないんだから!あなたもなんとか言ってよ、いつも私ばっかり!」
母さんが怒り出した。
先に興奮され、あたしは行き場のない怒りを引っ込めるしかない。ああなれば、母さんは手をつけられないからだ。しばらく、ご飯と味噌汁だけかも__。
部屋に戻って、考える。
あたしは、どっちと暮らすのだろう?
隣の部屋で息を潜めているあたしは、幼い自分がどちらを選択したかわかっている。でも、本当に最後まで悩んだ。
あたしは、父さんが大好きだったから。
優しい父さんと、口うるさい母さん。
数日間、そればっかり考えていた。どっちと暮らすのがいいか、シミュレーションをしてみる。
優しいけれど優柔不断の父さんを、あたしがサポートする。とてもしっくりくる。気の強い母さんは、今とは比べものにならないくらい、あたしに厳しくなるだろう。
父さんには、あたしがついてなきゃ。
心の天秤が傾き出したある日、学校から帰ると__。
母さんが、泣いていた。
声を押し殺して、泣いていたんだ。