あっ、お父さんだ。
あたしが小4ということは、ちょうど20年前か。
その頃は、一家3人で暮らしていた。お母さんもまだ、整体の仕事をしていない。資格すら持っていなかったんじゃないか?
「由梨、話があるの」
お母さんが怖い顔をしている。
なにか怒られるのか?と子供のあたしは咄嗟に身構える。
そして頭の中で、どの悪さがバレたのだろうか?と必死で考えているが、仏間からこっそり覗いている大人のあたしには、なんの話かすぐに分かった。
大きくなっても、忘れられない記憶がある。
忘れたくても、忘れられない記憶が__。
「母さんとお父さん、離婚することになったの」
『離婚』という大人のワードに、胸がずきんと弾んだ。
「だから由梨、どっちについていくか自分で決めなさい。もうそれくらい、自分で決められるでしょ?」
どちらかというと、母さんのほうが厳しかった。
礼儀や作法にうるさく、それをお父さんが笑顔でたしなめる。
『誰かが嫌な役をしないといけないの。あなたはいいわね、甘やかすだけで』と、よく言い争い__といっても、母さんが一方的に責めるだけだが。
これまで、いくらおてんばだったとしても、柵の内側で守られて生活していた。
その柵が、いきなり取っ払われたんだ。