河川敷だ。
吹き荒ぶ風に乗って、原田の泣き声が聞こえる。
まだなにもしていないのに、めそめそ泣きやがって!とケツに蹴りをお見舞いしてやった。すると周りにいた男子が笑って囃し立てた。
わかった。これは決闘だ。
いつも原田をいじめるリーダー格を呼び出し、嫌がる原田を引きずって、タイマンさせたんだ。
いくらあたしが守ってやっても、いじめは止まらない。
原田が男になるしかないんだ。
「由梨ちゃん、助けてよー‼︎」
あたしの元に逃げ帰ってくる原田を押し戻す。
原田はデブだ。力はある。ただ喧嘩のやり方を知らないだけ。そして優しい。これが1番の致命傷だ。
だから1発でいい。1発、大きいのを喰らわせることができれば__。
「女に守られて情けねー!」と、相手が向かってくる。
これにはあたしも同感。
「わぁー!」と女みたいな悲鳴を上げていた原田は、背中に隠し持っていた棒切れを相手の脳天に振り下ろした。
1発KOだ。
なにも素手でっていうルールはない。
1度でいいから、相手を打ち負かすことが重要なんだ。どんな手を使ってもいいから__でも「ずるい!」と相手の子分たちに一斉に飛びかかられ、さすがのあたしもボコボコにされた。
原田と2人、大の字になって空を見上げる。
なんだか可笑しかった。
「由梨ちゃん、ごめんね」
この時ばかりは、なぜか腹が立たなかったんだ。