「なにって、それはさ、あの__」
「遅刻するんですけど?」
「えっ、ああ、学校ね」
そう言いながら、あたしは辺りを見回した。
やっぱりたい焼き屋はいない。
いたら代わりに訊いてもらえたのに__。
「遅刻するんで」
そんな声にハッとする。素早く脇をかけていこうとした女の子の手を掴み、あたしはとうとう目的を成し遂げた。
「名前っ、名前なんていうの⁉︎」
ぐっと力を込めるが、女の子は怯むどころかあたしをキッと睨みつけ、大きく息を吸い込んだ。
「た、助けてっ!殺されるー!」
「なっ、ちょっと⁉︎」
「誘拐される!誘拐誘拐誘拐誘拐!」
大声でわめき出したので、思わず掴んでいた手を離してしまった。
その途端、膝を思い切り蹴られて屈んだところをすり抜けていく。
顔を上げた時にはもう、女の子の赤いランドセルは見えなくなっていた。
騒ぎになる前に、あたしもその場から離れる。
やがて呼吸は落ち着いたが、胸の高鳴りは止まらない。
間違いない。
名前を知ることはできなかったが、間違いない。
あれは__あたしだ。
小学生の、あたしだ。
ということは__?