格子状の網目の上に、生まれたてのたい焼きを放流する。
あら熱を取るのは、いつもと同じ。
身の引き締まった、特別なたい焼きは今にも飛び跳ねそうだ。
「1つだけ、いいですか?」
ようやく僕が声を出すと、由梨さんが神妙に頷いた。
「このたい焼きを食べても、未来に行くとは限りません。過去に行く場合もあります」
「過去、に?」
「はい。確率は二分の一。それから、食べるのは半分までです。頭か尾っぽ、どちらか半分だけ食べて下さい。必ず半分、残すこと」
「それは、どうして?」
「全部食べてしまうともう、戻ってこれなくなります。残り半分は、過去か未来で食べること。そうすれば、元の時代に戻ってきます」
「半分だけ食べる、半分だけ」
僕の説明を反芻する由梨さん。
非現実的なことが目の前で起ころうとしているのに、その目は真剣そのもの。
「でもちょっと待って。あたし、過去に行っても仕方ないんだけど?」
「そう言われても、僕も困ります」
「なにかこう、ヒントないの?頭か尾っぽかってことでしょ?どっち食べたらどっちに行くとか、統計的なものとか__」
「ありません」
きっぱり言い切ると、まだ何か言いたげだった由梨さんは黙り込んだ。
たい焼きを、目の高さまで持ち上げる。
少し寄り目になったまま、由梨さんはたい焼きをかじった。
頭から__。