僕は、同じ目線の高さにあった【一丁焼き】の鉄板の持ち手を掴んで、ぱっくり開いた。
黒いたい焼きが目を覚ます。
「えっ、それって焼けるんだ⁉︎」
「はい。でも、これ用に生地も配合しないといけないし、鉄板も慣らさないといけないんで30分はかかります」
「__もしかして、それを食べたら?」
頬を強張らせている由梨さんの質問には答えず、僕は準備にとりかかる。
手焼きをするのは久しぶりだ。
「あたし、それってただ飾ってあるのかと思った。でも、神棚みたいなところに置いてあるから、なんか特別だとは思ってたけど」
由梨さんは座るこのとなく、僕の手元を凝視している。
見られることには慣れっこだけど、少しばかり緊張しないでもない。
だってこれから__由梨さんの運命を大きく変えてしまうかもしれないから。
それでも僕の頭に浮かんでくるのは、牧子さんだ。
牧子さんの『あの子には幸せになってほしい』という強い思いが、僕を突き動かしていた。
この母娘は、幸せにならなくちゃいけない。
「そうやって焼くんだ」
ぼそりと呟いた由梨さんも、それから1枚のたい焼きが焼きあがるまでは口を開かなかった。
2つの持ち手を広げると、小ぶりのたい焼きが顔を出す。