由梨さんは悔しげに、たい焼きにかぶり付く。
「容姿端麗、経済力有、おまけに健康。それからすぐ交際を申し込まれてさ、まぁあたしも、あんまり顔がいいからって試しに付き合ってみたんだけど」
「なにか無いんですか?足が臭いとか」
僕が憎々しげに言うと、由梨さんはぷっ!と吹き出して大声で笑った。
「面白いこと言うじゃない。でも、それくらいじゃ、あたしのこの胸のもやもやは取れないのよ」
「やっぱり、騙されていると?」
「そんなことないって、あいつは言うけどね」
素直に気持ちを受け入れられない感じの由梨さんは、残り半分のたい焼きを口に押し込む。
それは『頭』だった。
すなわち、由梨さんは尾っぽから食べる派であり、慎重かつロマンチスト。
やっぱり当たってるな?
変なところで感心していたら、いきなりストレートの豪速球がきた。
「未来に行けるたい焼き、あるんでしょ?」
それはもうデッドボールに近い。
僕はなにも食べていないのに、むせてしまったくらい。
「そ、そんなのあれば、みんなとっくに未来に行ってますよ?」
そう言う僕の顔を、目を細めて睨(ね)めつけていた由梨さんは、やがて大きく息を吐いた。
「そりゃそうよね」
と。