由梨さんがやってきたのは、その日の夜だった。
「2枚」と注文すると、置いてある雑誌を読み出す。
「ずっと出張だったんですか?」
「うん、疲れちゃった」
「お疲れ様です」
「体がね、あんこ食いたいって言うからさ」
雑誌から目を開けずに答える。でも、ページをめくるスピードが早い。
「母さん、来たでしょ?」
「お昼にいらしてました」
「じゃ、聞いたんだ?」
「えっ?」
顔を上げると、同じく雑誌から顔を上げていた由梨さんとばっちり目が合う。
雑誌はもう、畳まれていた。
「色々、聞いたんでしょ?」
「いや、それは__」
「別にいいのよ、困らそうってわけじゃないし。今ね、母さんは味方を募ってるの」
「味方?」
「そう。自分の考えが間違ってないか賛同してくれるひと。太った娘が、たぶらかされているっていう考えに、ありきさんも1票投じてくれたって」
「いや、僕は何も言ってないですよ!」
慌てて否定すると、由梨さんはくすっと笑った。
「だから、困らそうってわけじゃないから。それに__母さんの1番の賛同者は、あたしだから」
そう力なく笑う。
そんなことないと励ますわけにもいかず、長い沈黙が流れた。
こういう時、不思議なものでたい焼きはなかなか焼けない。
会話の糸口を探していると、由梨さんのほうから口を開いてくれた。
それは思いもよらないものだったが__。
「ねぇ」
「はい?」
「あたし、聞いたことあるんだよね」