「それがね」と、いきなり牧子さんの声がこもりだす。
今からとっておきの秘密を打ち明けてあげると。
僕が耳を近づけると、逆に牧子さんはすーっと背筋を伸ばして身を引いた。
「聞きたい?」
こういうところ可愛らしいし、めんどくさい。
僕がお店を始めた当初は、事あるごとに由梨さんのことを押し売ってきたのは、母親として心配だからか__。
『ホントに男っ気がないのよ』
ため息まじりにこぼしていた牧子さん。
「聞きたいです」と素直に言うと、訳知り顔で頷いた。
「それがね、連れてきたのよ」
主語がない話には、嫌でも引き込まれてしまう。
「由梨が、男を連れてきたの!」
そこは『彼氏』じゃないのかと思ったけど、大袈裟に驚く牧子劇場に水を差すのはためらわれた。
「どう思う?」
「いや、どうって言われても、良かったんじゃないですか?」
「それが良くないの!」
「どうしてですか?」
「これ見たら、すぐにわかるわ」
牧子さんが取り出したのは、スマホ。慣れた手つきで操作をし、ある画面を僕に向かって突き出してきた。
そこには__ひと組の男女が写っている。
由梨さんと、由梨さんの隣にいる__?
「ねっ?ねっ?」
「__はい。すごくイケメンですね」