「大志、おめぇ父親がいっぱいだな」
楽さんが、吾郎さんの手から倅くんを奪い返し頬をすり寄せる。
『大志』という名前にしたと、わざわざ報告に来てくれたのは数日前。
まだ首も座ってないし、外の世界に免疫もできていない。
いくら子供が居ない僕にだって、それくらいのことは分かるけど__競い合うようにしてあやしている滑稽な姿をみていると、心がほっこりする。
ましてや「大志(たいし)の大は、たい焼きって意味もあんだよ。ホントは鮪(まぐろ)って名前にしたかったけど、反対されてよ。なんでもいいから魚な名前を入れたくてな。立派な後継にしたいからな」なんて言われればね。
「おい、なんか臭わねーか?」
源さんが鼻をひくつかせる。
「マジか⁉︎」と楽さんが慌て出す。
「俺がやろう。なんせひ孫までいるからな」
亀さんが名乗り出るものの、紙おむつじゃなく布だと知るやいなや、知らん顔でたい焼きを食べ始めた。
「ふ、拭くもんあるのか?」
「リュックにちり紙がある!」
「優しく拭けよ!赤ん坊のケツは桃だからな!」
「んじゃ、亀のがいいんじゃねーか?」
「なんで俺なんだよ⁉︎」
「おめぇ、青果店だろうが」
「それとこれとは__」
「うわっ、ついちまった!」
「きたねっ!」
「おい、ねじりつけるな!」
「な、なんとかしろ、たい焼き屋!」
「そうだ、おめぇーが1番若い!」
「たい焼き焼けるし」
「おい、なに笑ってんだよ!」
「いや、いいんじゃないですか?」
「なにがいいんだよ⁉︎」
「大志くん__笑ってるんで」